名作「小さき者へ」―幼な児を遺して逝く母の無念と万感の思‪い‬

母親の愛情に抱かれて育つべき時期に、その母親を結核で失ってしまった有島の幼い3人の子供達。愛児を遺して逝かねばならないと悟った時の母の無念と万感の思いは、次の一節からも溢れています。
「いよいよH海岸の病院に入院する日が来た。お前たちの母上は全快しない限りは死ぬともお前たちに逢わない覚悟の臍(ほぞ)を堅めていた。二度とは着ないと思われる晴着を着て座を立った母上は内外の母親の眼の前でさめざめと泣き崩れた。その熱い涙はお前たちだけの尊い所有物だ。」
「幼児に死を知らせる事は無益であるばかりでなく有害だ。葬式の時は女中をお前たちにつけて楽しく一日を過ごさして貰いたい。そうお前たちの母上は書いている。」
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