復員殺人事件
-
- CHF 2.00
-
- CHF 2.00
Beschreibung des Verlags
終戦の年から二度目の八月十五日を迎え、やがて秋風の立つ季節になった。
その暮方、私はちょうど小説を脱稿したので、久し振りに巨勢博士の探偵事務所を訪ねた。そこは有楽町駅に近いビルの一室で、私の行きつけの裏口飲み屋に目と鼻のところであるから、博士を誘って一杯飲もうと思ったのである。
もとより遠慮のない間柄であるから、なんの訪いもなく勝手に扉をあけてはいって行くと、若い青年と、若い婦人の先客がいて、何やら用談の気配である。遠慮のない間柄とは云っても探偵事務所のことであるから、そこにはおのずから節度がなければならない。