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      正月の末、いつも通り十二時前後に社を出た新聞記者の私は、寒風の中に立ち止まって左右を見まわした。どこかで一杯引っかけてから、霞ヶ関の暗い坂を登って、二時きっかりに下宿に戻る習慣がついていた。

今夜はどっちへ曲がろうと考えていると、一台の泥だらけのフォードが近づいてきた。帽子を深くかぶり、黒いマスクをかけた若い運転手。私が手を振っても自動車は動かなかった。

今度は、運転手が窓に顔を近づけて、私にだけ聞こえるように「無賃ただでもいいんですが」といった。笑っている目つきを見て面を食らった私は、記事のネタになりそうだと車に乗り込んだ。

行き先も聞かずにスピードを出して、一気に数寄屋橋を渡って銀座裏へ曲り込んだ。いよいよ怪しいと思った矢先スピードを落とした運転手は帽子とマスクをとって私の方に振り返る。

 

    「新聞に書いちゃイヤヨ。ホホホホ……」

 

    私は思わず目を丸くした。その姿は、二週間前から捜索願が出ている某会社の活劇女優だったのだ。私は、ずっと前にある雑誌の猟奇座談会で彼女とたった一度同席していた。

その時、私がこころみた「殺人芸術」に関する漫談を青白い顔で聞いてたのを覚えている。

彼女は、「女優生活に飽きた」という理由でスタジオを飛び出し、東京へ逃げ込むと私の下宿近くの小さなアバラ家を借りて生活をはじめた。

その後、男のような本名の運転免状を持っているのをきっかけに運転手に化け込んでいたのだ。なぜ彼女が私を選んだのか?

 

    その心理の正体を突き止めるため、二人は秘密の生活を始める。この時の私はまだ彼女の猟奇的な一面に気づいていなかった。

 

GENRE
Fiction
NARRATOR
野晃
野口 晃
LENGTH
00:52
hr min
RELEASED
2018
August 10
PUBLISHER
パンローリング株式会社
PRESENTED BY
Audible.co.uk
LANGUAGE
JA
Japanese
SIZE
42.2
MB