文字禍
Descripción editorial
「文字禍(もじくわ)」
中島敦(なかじま あつし、1909(明治42)年〜1942(昭和17)年)の書いた短編小説です。
1942(昭和17)年、「山月記」と同時発表のデビュー作でした。
紀元前7世紀、アッシリア帝国の老博士が文字の精霊に立ち向かいます。
少し残虐描写や、誰が歴史を作るかなど、一斉授業で扱いにくそうで、
それが教科書に載った山月記との違いかもしれません。
旧字旧仮名の原文にふりがなを振り、総ルビで縦書きの電子書籍にしました。
1948(昭和23)年以前の日本語の書き言葉は、漢字の字体、かなづかいが今と違いました。
漢字は今の台湾の漢字に似た画数の多いものだったり、
かなづかいは歴史的仮名遣いと言われる古文のそれでした。
戦前の本は、必ずこの旧字旧仮名です。
とはいえ、漢字は割とそのままも多いですし、かなづかいは中学高校の古文で履修済み。
後は旧字旧仮名で総ルビの本をいくつか読めば、あなたも旧字旧仮名マスター。
国立国会図書館デジタルコレクションの古い本が、インターネットで無料で読み放題。
読書の世界が広がります。
アッシリアの首都ニネヴェの図書館が発見されたのは、1849(嘉永2)年でした。
尚、ルビの誤りには気を付けていますが、もしお気付きの際はお知らせください。
読みには揺らぎのあることもあります。
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靑年等(せいねんら)の如(ごと)く、何事(なにごと)にも辻褄(つじつま)を合(あは)せたがることの中(なか)には、何(なに)かしらをかしな所(ところ)がある。全身(ぜんしん)垢(あか)まみれの男(をとこ)が、一ケ所(しよ)だけ、例(たと)へば足(あし)の爪先(つまさき)だけ、無闇(むやみ)に美(うつく)しく飾(かざ)つてゐるやうな、さういふをかしな所(ところ)が。彼等(かれら)は、神祕(しんぴ)の雲(くも)の中(なか)に於(お)ける人間(にんげん)の地位(ちゐ)をわきまへぬのぢや。老博士(らうはかせ)は淺薄(せんぱく)な合理主義(がふりしゆぎ)を一種(いつしゆ)の病(やまひ)と考(かんが)へた。そして、其(そ)の病(やまひ)をはやらせたものは、疑(うたがひ)もなく、文字(もじ)の精靈(せいれい)である。
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*目次*
├文字禍
└底本などに関する情報