国木田独歩「武蔵野/空知川の岸辺」―傷心の独歩を癒した武蔵野の自然美と人なつかしい趣き
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発行者による作品情報
『武蔵野』は、春夏秋冬の詩情に満ちた武蔵野の林の美しさを描いた国木田独歩の名作。独歩は、明治29年(1896年)の秋、東京の郊外に広がる武蔵野の林を毎日のように散策して、同31年にこれを発表した。人の暮らしとともにある落葉樹の変化の美しさは、人跡未踏の北海道の森林のそれとは異なる。ツルゲーネフ描くロシアの白樺林の描写に武蔵野の美との共通性を感じさせる。黄葉、落葉、木々の梢、澄み切った蒼天、落日、風の音、時雨のささやき・・・どれもが武蔵野の魅力を構成している。
『空知川の岸辺』は、独歩との結婚に親の許しを得られぬ恋人の佐々木信子との新天地での生活を夢見て、北海道の空知川の森林地帯に土地の購入計画をするため、明治28年に単身で探査した際の事を綴った作品。そこで見たものは、「見渡すかぎり、両側の森林これを覆うのみにて、一個の人影すらなく、一縷の軽煙すら起らず、一の人語すら聞えず、寂々寥々として横わつて居る」ということだった。その後、独歩は北海道の地を踏むことはなく、信子との結婚も破綻した。その深い心の傷を癒したものは、武蔵野の美であり人なつかしい趣きであった。
※英語の一文は、「音読さん」を使用しています。