待つ 待つ

発行者による作品情報

太宰治(明治42年 - 昭和23年)による短編小説『待つ』

「省線のその小さい駅に、私は毎日、人をお迎えにまいります。誰とも、わからぬ人を迎えに。
市場で買い物をして、その帰りには、かならず駅に立ち寄って駅の冷いベンチに腰をおろし、買い物籠を膝に乗せ、ぼんやり改札口を見ているのです。上り下りの電車がホームに到着するごとに、たくさんの人が電車の戸口から吐き出され、どやどや改札口にやって来て、一様に怒っているような顔をして、パスを出したり、切符を手渡したり、それから、そそくさと脇目も振らず歩いて、私の坐っているベンチの前を通り駅前の広場に出て、そうして思い思いの方向に散って行く。私は、ぼんやり坐っています。誰か、ひとり、笑って私に声を掛ける。おお、こわい。ああ、困る。胸が、どきどきする。」――

初出 昭和17年(1942)短編小説集「女性」

(C)2021 声の書店.

ジャンル
名作
ナレーター
長尾奈奈
言語
JA
日本語
ページ数
00:07
時間
発売日
2021年
3月2日
発行者
長尾奈奈
サイズ
8.1
MB