晩菊(小学館の名作文芸朗読)
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発行者による作品情報
【小学館の名作文芸朗読】
田部から電話があり、一年ぶりに訪ねてくるという。別れた男は恋の焼跡を吟味しに来るようなもの。元芸者の相沢きんは滞りなく身支度を済ませると、鏡の前で自分の舞台姿を確かめる。錦絵のような美しさは遠い過去のことだが、五十六歳になるまで、美しさの風格も変化している。田部には昔の青年らしさの面影はすでにない。そして彼は、誰か四十万ほど貸してくれる人はいないかと言う。きんの胸に冷ややかなものが流れてきた。