違う海にいる: (小学館)
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発行者による作品情報
旧友たちから盗んだ小さな海でたゆたいながら、思い出すのは彼のこと。
僕が「一番風呂泥棒」という奇妙な趣味を始めたのは、1年ぶりに稼働した大学同期5人のグループラインがきっかけだった。
「結婚したわ」「俺も」……社会人7年目は、身を固めるのにちょうど良い頃合いらしい。僕は、彼らの新居への引越しを手伝いながら、密かに真新しい浴槽に湯をはり、一番風呂を奪った。家庭人になってゆく友人たち──橋本、中島、赤塚、それから……少し遅れて松島から同様の報告があったとき、僕の口腔に、あの日飛び込んだ逗子の海の、塩辛さが広がった。
直木賞候補作『令和元年の人生ゲーム』でZ世代を中心に圧倒的共感と支持を得た麻布競馬場。そんな著者がかつてない切り口で描く、誰もが通る〝別れ〟の切なさが胸を浸す一編。
(「GOAT」第1号掲載)