高丘親王航海記
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- ¥770
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発行者による作品情報
澁澤龍彦没後30年。遺作となった伝説の傑作幻想小説が、いま新たな装いで!
平城天皇の皇子に生まれ、嵯峨天皇即位すると皇太子に立てられるも、父上皇と天皇との諍い(薬子の変)により廃された高丘親王。出家し弘法大師の直弟子となった親王は、東大寺大仏の再建に尽力するなど重要な働きを果たすが、晩年に至り朝廷に入唐求法の願いを出し、唐へ渡った。
親王の真の願いは、幼き日に父帝の寵姫藤原薬子に教えられ、憧れていた天竺を訪れることだった。
貞観七(865)年正月、高丘親王は唐の広州から海路、天竺へ向かった。鳥の下半身をした女、犬頭人の国など、怪奇と幻想の世界を遍歴した親王はやがて旅に病み、その心に去来したものとは……。
無類の面白さと、静かなる気品に満ちた傑作幻想小説。著者の死後に読売文学賞が与えられた。
高橋克彦さんの傑作解説も再収録!
APPLE BOOKSのレビュー
フランス文学、幻想文学の研究者であり、優れた作家でもあった澁澤龍彥の、最初で最後の長編小説。平安時代初期に実在し、天竺への旅の途上で消息を絶った高丘親王をモデルに、皇子の最後の航海を幻想的に描く。高丘親王は幼い頃、父・平城天皇の愛妾として専横(せんおう)をふるった藤原薬子から異世界・天竺のことを聞かされ、その憧れは日に日に増していく。60歳を越えてついに唐に渡り、広州から船で天竺を目指す。一行は旅の途次で、人語を解するジュゴン、地球の裏側とリンクするオオアリクイ、人面体鳥の迦陵頻伽(かりょうびんが)などと出会い、不思議な体験を重ねていく。これは現実か、それとも親王の夢か?「西遊記」を彷彿とさせながら、より幻想的で官能的な、虚実ないまぜの世界が広がる。ヨーロッパばかりか、中国や南方の伝奇伝承をも網羅する筆者の博識ぶりが随所に散りばめられ、筆致は軽妙で現代的。執筆当時、既に病床にあり、出版を待たずして他界した澁澤と、天竺を目前に没する親王の姿とが重なる。