きらん風月
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5.0 • 3件の評価
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- ¥1,900
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発行者による作品情報
筆という卵が生み出すのは、武者か美女か、それとも鬼か。東海一の文化人と、松平定信の交流が心を揺さぶる。──直木賞受賞第一作!
かつては寛政の改革を老中として推し進めた松平定信は、60を過ぎて地元・白河藩主の座からも引退した。いまは「風月翁」とも「楽翁」とも名乗って旅の途次にある。その定信が東海道は日坂宿の煙草屋で出会ったのが栗杖亭鬼卵。東海道の名士や文化人を伝える『東海道人物志』や尼子十勇士の物語『勇婦全伝絵本更科草子』を著した文化人だ。片や規律正しい社会をめざした定信に対し、鬼卵は大坂と江戸の橋渡し役となる自由人であり続けようとした。鬼卵が店先で始めた昔語りは、やがて定信の半生をも照らし出し、大きな決意を促すのだった……。
APPLE BOOKSのレビュー
『木挽町のあだ討ち』で直木賞と山本周五郎賞をダブル受賞した、人気作家による受賞後初の作品。時代小説に新風を吹き込んだ独特の視点で、東海道の宿場町でのつかの間の交流を洒脱(しゃだつ)につづる。真面目過ぎるがゆえに「寛政の改革」で政治的混乱を招き、歴史に名を残した元老中の松平定信が、隠居旅で謎の文化人、栗杖亭鬼卵(りつじょうていきらん)と出会う。浮世絵が『東海道名所図会』に収録され、『絵本更科草子』や『蟹猿奇談』などの読本で人気を集め、東海道中の名士録『東海道人物志』を刊行した実在の才人が、問われるままに自身の半生を語る。それは、松平定信が政権にあった時代を、庶民側から見たもう一つの歴史でもあった。文化を切り捨てた為政者と、ただ自由を目指した表現者の会話は、現代でも持ち上がる表現の自由と規制に対する議論に通じるところがある。一方で、為政者も表現者も、事件や天災に対する無力感において共感する部分は少なくない。江戸中期の社会文化を風刺しながら、現代にも鋭いメッセージを送る、鬼卵の力の抜けた語り口が心に響く。