



こうしてイギリスから熊がいなくなりました
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3.0 • 1件の評価
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- ¥880
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発行者による作品情報
電灯もオイル・ランプもなく、夜がまだ謎めいていたころ、森を忍び歩く悪魔として恐れられた「精霊熊」。死者のための供物を食べさせられ、故人の罪を押しつけられた「罪食い熊」。スポットライトを浴びせられ、人間の服装で綱渡りをさせられた「サーカスの熊」。ロンドンの下水道で、雨水や汚れを川まで流す労役につかされた「下水熊」。──現在のイギリスに、この愛おしい熊たちはいません。彼らはなぜ、どのようにしていなくなったのでしょう。『10の奇妙な話』の著者であるブッカー賞最終候補作家が皮肉とユーモアを交えて紡ぐ8つの物語。/【目次】1 精霊熊/2 罪食い熊/3 鎖につながれた熊/4 サーカスの熊/5 下水熊/6 市民熊/7 夜の熊/8 偉大なる熊(グレート・ベア)/訳者あとがき/解説=酉島伝法
APPLE BOOKSのレビュー
「10の奇妙な話」など、奇想とユーモアにあふれた作品を手掛けるミック・ジャクソンの短編集『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』。架空のイギリスを舞台に、個性的な熊たちが主人公として登場するストーリーが収録されている。夜中に姿を見せずに大騒ぎし、死者の罪を食べたり、こっそり市民に紛れて暮らすなど、物語に描かれる熊たちの姿は愛らしく思わず頬が緩んでしまう。しかし、いずれのエピソードでも最後には熊が去っていく姿が描かれており、そこには人間の乱獲により現代のイギリスでは野生の熊が絶滅したとされる現実に対する、著者の強いアイロニーを感じさせる。人間の暮らしに寄り添い、ある時はあがめられ、その一方で利用されながらも、人々の生活に支障が及んだ途端に排除されてしまう野生生物の悲哀を、ミックが得意とする奇妙で不思議な世界観の中で巧みに表現。読みやすい文章と挿絵で構成されているが、鋭いメッセージを含んだ物語は大人たちの胸にこそ深く響く。