てんのじ村
-
-
3.0 • 3件の評価
-
-
- ¥440
-
- ¥440
発行者による作品情報
大阪は通天閣の下に、漫才師、奇術師、浪曲師といった芸人たちがあつまり住む一郭“てんのじ村”があった。戦前、戦後、そして高度経済成長期と、大阪芸人の活躍の場が、寄席からラジオ、テレビへと移りゆくなか、時代の波にとり残された八十二歳と五十五歳の漫才コンビ。しかし、その二人に、たった一度だけ華やかなテレビのスポット・ライトが当てられる日が来たのだが──。身を寄せあって生きていく善意の人々の哀歓を、しみじみと描いた第91回直木賞受賞作。
APPLE BOOKSのレビュー
第91回(1984年上半期)直木賞受賞作。戦後の大阪で多くの芸人が暮らしていた「てんのじ村」を舞台に、芸人たちの人間ドラマを描いた人情譚。てんのじ村は現在の西成区山王辺りに実在した場所で、ミヤコ蝶々らのスターを輩出するも、住んでいたのは大概が名も無き芸人たちで、この作品もそんな彼らにスポットを当てている。「ドジョウすくい」「かぼちゃ」といった持ちネタで一流演芸場の舞台を踏んできた花田シゲル。時代の移り変わりとともに次第に出演の機会が減り、活気のあったてんのじ村全体にも沈滞ムードが漂う。テレビの時代を迎え、顔なじみの芸人たちも次々と去っていくが…。下積み芸人のしたたかさと優しさ、人生を懸けて芸事に打ち込む姿に胸が打たれる正統派の芸道もので、個性あふれる芸人仲間たちの交流と長屋での暮らしが生き生きと描かれている。葬式で僧侶の代わりを務めた曲芸師が、経を唱えるうちにいつの間にかあほだら経を口ずさみ、それに皆が突っ込むシーンなど、作品に漂う哀歓がたまらない。シゲルと相方が初めてのテレビ出演の後で交わすやり取りにも思わずほろり。「老い」を爽やかに描いているのも本作の魅力だ。