ひきなみ
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- ¥1,600
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発行者による作品情報
小学校最後の年を過ごした島で、葉は真以に出会った。からかいから救ってくれたことを機に真以に心を寄せる葉だったが、ある日真以は島に逃げ込んだ受刑者の男と一緒に島から逃げ出し、姿を消してしまう。裏切られたと感じた葉は母に連れられ東京へ戻るが、大人になって会社で日々受けるハラスメントに身も心も限界を迎える中、ある陶芸工房のHPで再び真以を見つける。たまらず会いに行った葉は、真以があの事件で深く傷ついていることを知り――。女であることに縛られ傷つきながら、女になりゆく体を抱えた2人の少女。大人になった彼女たちが選んだ道とは。
APPLE BOOKSのレビュー
瀬戸内の小さな島で出会った2人の少女、葉と真以。物語は2人に突然の別れが訪れるまでを描いた「海」と、彼女たちの20年後を描く「陸」の2部構成になっている。どちらにも共通しているのは、葉と真以が直面する生きづらさ、彼女たちを抑圧し続けるものの存在だ。古い因習や男尊女卑が残る島社会から、脱獄犯と共に姿を消した真以。一方、大人になって東京で暮らし始めるも、上司の執拗なパワハラに苦しむ葉。友情と呼ぶには屈折していて、恋愛と呼ぶにはプラトニックでドライな、葉と真以の距離感の描写も秀逸だ。『透明な夜の香り』『さんかく』など、千早茜はこれまでも主人公たちの一筋縄ではいかない関係性にこだわり、その距離感の中で戸惑う彼らの内面の機微をつづってきた。本作の葉と真以もまた、互いの重荷を少しずつ理解しながら、それぞれの決着をつけようとしていく。タイトルになった「ひきなみ」とは、船が通った水面の跡のこと。すぐに波でかき消されてしまう跡だけれど、それでも彼女たちは「ひきなみ」を残して前に進んでいく…そんな微かな希望が最後に灯る物語だ。