もぬけの考察
-
- ¥1,500
-
- ¥1,500
発行者による作品情報
第66回 群像新人文学賞受賞作!
この部屋の住人は、みんないなくなる? 都市の片隅にあるマンションの一室、408号室に入れ替わる住人たち――。奇想天外な物語が、日常にひそむ不安と恐怖を映し出す。
同じ部屋で前の時間が見えないまま孤独と恐怖を積み重ねていく構成で細部まで考えられていた。
理不尽さと暴力的な状況がスリリングで、多様な恐怖を描ける人だと思った。――柴崎友香
一連の奇想天外な考察は、インスタレーションと呼ばれる空間芸術の手法とも似ていて、
日常性からの逸脱を効果的に演出するにはうってつけだ。
――島田雅彦
ある〈部屋〉のみを舞台にすることで、作品の〈空間〉は限定されている。
が、前の住人、その前の……と過去を連鎖的に想像可能で、今後の住人という未来も延々の想像が可で、その意味で〈時間〉が限定されない。そこに越境のポテンシャルが満ちている。――古川日出男
APPLE BOOKSのレビュー
都会に建つ賃貸マンションの一室を舞台に、都市生活者の孤独と不安を描いた4編の連作短編集。12階建て、オートロック付き、8畳半のワンルームマンション。手頃な家賃だが、鍵の壊れたポストには前の住人宛の郵便物があふれ、窓から見える景色は向かいの廃屋の屋上に散乱したごみ、という408号室。そこの住人が1人、また1人と消えていく…。会社をサボり続け、漠然とした時間を過ごして引きこもる女性を描く「初音」、オンライン講義に飽き、内気を克服しようとナンパに明けくれた結果、唯一連れ込んだ女の束縛にへきえきする大学生の「末吉」、友人からペットに不慣れな住人に預けられたシナモン文鳥が主人公の「こがね」、貧しい画家が前の住人や部屋のことを思い描くうち、抜き差しならない状況に陥るタイトル作の「もぬけの考察」。他者の介入が契機となる物語群だが、いずれも突然訪れる不条理な展開や不安感、そして鋭い人間描写が特徴で、パトリシア・ハイスミスの短編を思わせるほど。各編に繰り返し現れる、侵入するクモ、隣人の不快な咳、ずさんで信頼できない管理会社といった不穏なモチーフも含め、コロナ禍の閉塞感を乾いた筆致で見事に描いている。