



グリフィスの傷
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5.0 • 1件の評価
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- ¥1,800
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- ¥1,800
発行者による作品情報
からだは傷みを忘れない――たとえ肌がなめらかさを取り戻そうとも。
「傷」をめぐる10の物語を通して「癒える」とは何かを問いかける、切々とした疼きとふくよかな余韻に満ちた短編小説集。
「みんな、皮膚の下に流れている赤を忘れて暮らしている」。ある日を境に、「私」は高校のクラスメイト全員から「存在しない者」とされてしまい――「竜舌蘭」
「傷が、いつの日かよみがえってあなたを壊してしまわないよう、わたしはずっと祈り続けます」。公園で「わたし」が「あなた」を見守る理由は――「グリフィスの傷」
「瞬きを、する。このまぶたに傷をつけてくれたひとのことをおもう」。「あたし」は「さやちゃん先生」をめがけて、渋谷の街を駆け抜ける――「まぶたの光」
……ほか、からだに刻まれた傷を精緻にとらえた短編10作を収録。
APPLE BOOKSのレビュー
直木賞作家、千早茜による“傷”をテーマにした短編集。表題の『グリフィスの傷』とは、一見滑らかに見えるガラスが内包する、目には見えない微細な傷のこと。この傷に力が加わることでガラスが割れる要因となる。リストカット癖のある元アイドルと“わたし”のささやかな交流を描いた表題作の「グリフィスの傷」。ひきつれた顔の男と見えない傷に苦しむ“わたし”の巡り合いとその顛末(てんまつ)を描いた「この世のすべての」。全身に入れ墨の入ったあおたんのおっちゃんと人目を引く美少女の“わたし”を描いた「あおたん」など全10編を収録。この10編の主人公たちはいずれも名前を持たない。そして一口に傷といっても、その種類はさまざま。そこには切傷、刺傷、銃傷、かみ傷などの外傷をはじめ、手術痕、整形や入れ墨、むろん心の傷も含まれる。その一つ一つについて、その傷がついた理由やその影響まで余すことなく淡々と描かれた物語は、主人公の名前がないからこそ、誰かのではなく、わたしの、そしてあなたの物語として感じられるのかもしれない。傷から想起される痛々しさだけではなく、ある種の突き抜けたポジティブさも感じられ、そこがかえって心に刺さる。