



コンクリートのくじら
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4.9 • 8件の評価
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発行者による作品情報
2020(令和2)年になり、三姉妹の次女アオコは『ただの文章』を書き始めた。それは日記でも、自叙伝でもない。いわばただの記録になるだろう。コーヒーを淹れ、パスタを茹でて本を読む。そんな何気ない平穏を好むアオコのもとに、ある二月の夜、妹のチヒロから一本の奇妙な電話がかかってくる......。漠然の不安を抱えながら新たな生活を生き抜くアオコが『ただの文章』に記した記録とは......。著者の二作目となる書き下ろし短編。
カスタマーレビュー
アイデンティティの喪失
学生から"社会人”になるタイミングで持っていけるものと持っていけないものがある。
これまでは自分を何者なのか考えなくても、というか考えさせしていなかった自分を構成していた大切なパーツ。
それは社会人になる上で邪魔なものであり、取り外していかないといけない。
そして残ったパーツでできたスカスカな自分を時自分と呼んでいいのかわからなくなる。
アイデンティティは取り外したパーツの中にある、だが間も無く”チヒロ"は死んでしまった。
そして7月には彼女のただの文章は終わりを迎えた。
彼女は残ったパーツで前に進む道を選んだのだ。
学生から社会人、子供から大人になる際に起こるアイデンティティの喪失を多角的に捉えた良作でした。
とても他人事とは思えず、自分とは何かを改めて考えるきっかけになりました。
次回作も楽しみにしています。
日常的そして非日常的
人であれば誰もが経験を持つ、日々の生活の目的や自分自身に対する終わりの無い様々な問いかけ、懐疑的なものの見方などそれらが自分の生活においてどんな役割を果たすのか、またそれ自体がどんなものだっのか、社会人となりどこか忘れかけていた感情を呼び戻してくれるようなストーリーでした。日常的で非日常的な素晴らしいバランスで進むこの話に、急に引き込まれるはずです。どこか親近感を覚えながら読めました。次回作、楽しみにしています。