



サンショウウオの四十九日
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3.3 • 16件の評価
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- ¥1,900
発行者による作品情報
周りからは一人に見える。でも私のすぐ隣にいるのは別のわたし。不思議なことはなにもない。けれど姉妹は考える、隣のあなたは誰なのか? そして今これを考えているのは誰なのか――三島賞受賞作『植物少女』の衝撃再び。最も注目される作家が医師としての経験と驚異の想像力で人生の普遍を描く、世界が初めて出会う物語。
APPLE BOOKSのレビュー
第171回(2024年上半期)芥川賞受賞作 - 傍目には1人の人間に見えるが、実際には2人の人間、二つの人格がその身体に一緒に住んでいる。そんな結合双生児をテーマに、生きることの意味を問いかける物語。現役医師作家としてデビューし、『植物少女』で注目を集めた著者の朝比奈秋は、本作で第171回芥川賞を受賞した。結合双生児といえば、1980年代ベトナムに生まれた実在の双子、ベトちゃんドクちゃんを思い出す読者もいるかもしれない。下半身が結合したベトちゃんドクちゃんとは異なり、本作の主人公の“杏”と“瞬”は足から頭までぴたりと結合した、まさに1人分の身体を共有した2人として描かれている。一人称の使い分け(“私”、“わたし”)によって、読者は語りの主体や2人の性格の違いを理解できる構造だ。しかし、物語が進むにつれて、杏と瞬を分ける境界は徐々にあいまいになっていく。会話とも独白とも取れる言葉の交錯の中で意識が混濁し、感情や記憶が自分だけのものなのか、疑わしくなっていくからだ。これは、2人が結合双生児という特別な存在だから体験するものではない。本当の自分とは。自分だけの思考とは。そうした問いかけが、人間が生きていく上で普遍的な命題であることを、本作は改めて気付かせてくれる。