



ザリガニの鳴くところ
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4.7 • 30件の評価
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- ¥2,000
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発行者による作品情報
ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。
APPLE BOOKSのレビュー
壮絶な環境で生きる一人の少女の成長譚とサスペンス。幼くして家族に捨てられ、天涯孤独の身となった少女カイア。自然の中で一人生きると決めたカイアを人々は“湿地の少女”と呼び、自分たちの社会の異物としてさげすみ、警戒の目で見ている。そんな人々が住む街で、とある殺人事件が起こる。事件の捜査と湿地でのカイアの日々は途中まで並行して進んでいくが、その2つが交わって以降はまさに息をつかせぬ物語展開で、ページをめくる手が止まらない面白さだ。自然と都市の境界に人々は野蛮と文明の対比を見いだし、それがカイアに対する差別や偏見につながっていく。本作の舞台は1950~1960年代ごろの米ノースカロライナ州だが、こうした他者への無理解の構図は、今も世界のそこかしこで見られるものだ。深い孤独の中でそれでも愛を信じ、自分の道を切り開いていくカイアの姿に胸が熱くなるのは、そこに私たちが抱える普遍的な問題が象徴されているからだろう。本作で小説家デビューを果たしたディーリア・オーエンズは、動物学者でもある。肌にまとわりつくような湿地の空気や草木の青い匂い、動物や虫たちのリアルな気配を読者に「体感」させる見事な描写の数々には、学者としての彼女の知見と観察眼が遺憾(いかん)なく発揮されている。