



シンパサイザー 上
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- ¥790
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発行者による作品情報
「私はスパイです。冬眠中の諜報員であり、秘密工作員。二つの顔を持つ男――」捕らえられた北ベトナムのスパイは、独房で告白をつづる。息もつかせぬスパイ小説にして皮肉に満ちた文芸長篇。ピュリッツァー賞、エドガー賞最優秀新人賞など六冠に輝いた傑作!
APPLE BOOKSのレビュー
戦争という大いなる運命に人生を左右されながら、たくましく生き抜いていく一人のスパイの姿を描く人間ドラマ「シンパサイザー(上)」。ベトナム生まれのヴィエト・タン・ウィンによる本書は、米ピューリッツァー賞をはじめ、数多くの賞を受賞した話題作。主人公は南ベトナムの将軍に側近として仕えながら、密かに北側の諜報員として暗躍する男。ベトナム戦争末期の混乱の中から物語は始まり、やがて敗戦によるスリリングな出国、アメリカでの難民生活がつづられる。ストーリーが進むごとに、主人公の複雑な生い立ちも明かされていく。ベトナム人でありながら欧米文化に幼少から親しみ、スパイでありながら敵国の人々にシンパシーを感じるなど、アイデンティティーを引き裂かれながら淡々と任務を遂行していく彼の姿は、近代以降、さまざまな大国の思惑によって翻弄されてきたベトナムという国そのものの歴史を象徴するよう。著者は膨大なエピソードと共に愛情と憎しみ、罪の意識が交差する人間の感情を丹念に描き出しながら、終戦してもなお癒えることのない戦争の深い傷を読者に訴え掛けてくる。アメリカで不本意な犯罪に加担した主人公が、再びベトナムに戻って戦後の祖国の姿を目撃する(下)も併せて読みたい。