



ナポレオン狂
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3.0 • 2件の評価
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- ¥620
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発行者による作品情報
自らナポレオンの生まれ変りと信じ切っている男、はたまたナポレオンの遺品を完璧にそろえたいコレクター。その両者を引き合わせた結果とは? ダール、スレッサーに匹敵する短篇小説の名手が、卓抜の切れ味を発揮した直木賞受賞の傑作集。第32回日本推理作家協会賞受賞の「来訪者」も収録する。
APPLE BOOKSのレビュー
第81回(1979年上半期)直木賞受賞作。ひやりとするユーモアに満ちた短編の名手として知られる、阿刀田高の神髄を堪能できるショートショート集。自分はナポレオンの生まれ変わりだと信じる男と、ナポレオンの熱狂的コレクターの邂逅(かいこう)が不条理ホラーへと転じていく表題作『ナポレオン狂』をはじめ、裕福な主婦の元へ産婦人科で知り合った女が突然訪ねてくる「来訪者」や、父が娘のために誘拐計画を練る「恋は思案の外」、愛車フォルクス・ワーゲンが入院中の男のために働く「甲虫の遁走曲」、美しい自慢の歯をおなかの子どもに受け継ぎたい妻とその夫の会話を描いた「白い歯」他、計13編が収録されている。まるで複数の歯車がぴたりとかみ合い、滑らかに回り始めるような構成の巧みさは、限られた文字数で展開されるショートショートの最も重要な要素。阿刀田のそれは、まさに職人芸とでも呼ぶべきものだ。しかも彼の生み出す物語は、最後に必ず思いもよらない展開が待ち受けている。目の前の景色が反転するような、自分の中でセオリーが崩れ落ちるような、そして背筋がゾワっとするような“オチ”の数々が、本作を忘れ難い作品にしている。