ネコババのいる町で
-
-
4.3 • 3件の評価
-
-
- ¥440
発行者による作品情報
わずか三歳でロスアンジェルスから一人、日本へ送られた恵里子は、実の母に捨てられたショックで失語症に陥る。家にいるのは気性のはっきりした叔母と口さがない祖母のふたり。隣家には「ネコババ」と祖母が呼ぶ女性。ネコババの家にはやさしいおじさんと「ネコバン」。行き場のない幼い少女の心をなぐさめるのはネコたち。生みの親が不在の家庭で、恵理子は人間のきずなというものを学んで成長していくが……。芥川賞受賞の表題作ほか二篇を収録。
APPLE BOOKSのレビュー
第102回(1989年下半期)芥川賞受賞作。40代で専業主婦から創作の道へ進んだ異端のキャリアを持つ瀧澤美恵子のデビュー作。母親がアメリカ人の再婚相手との生活を選んだことで、3歳の恵理子は英語しか話せないまま、ロサンゼルスから日本の祖母の家に送られてしまう。母親に捨てられたショックから恵理子は失語症になるが、祖母や、美人だが薄幸の叔母、さらに隣家の「ネコババ」と呼ばれる女性との交流を通じて言葉を取り戻し、ゆっくりと絆を育んでいく。やがて高校生になった恵理子は、別の家庭を持って暮らす父親を訪ねるのだが、別れ際に縁切り金を渡されてしまうのだった…。過酷な半生を淡々と軽やかに描く文体は、血のつながりという心のよりどころを持たない恵理子の生き様を表現。ステレオタイプな「幸せ」とは無縁な、まさにネコのように強くしなやかに生きる恵理子と周囲の大人たちの姿は、「家族」という概念がはらむ複雑性や功罪を鮮やかに浮き彫りにする。芥川賞を獲得した表題作の他、こちらも家族や結婚といった普遍的なテーマを扱う短編「神の落とし子」と「リリスの長い髪」を収録。