人間椅子
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4.3 • 170件の評価
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発行者による作品情報
本格探偵小説作家としてデビューした江戸川乱歩が、専業作家として歩み始めた1925(大正14)年に娯楽雑誌「苦楽」に発表した短篇小説。
自作の安楽椅子の中に潜みつつ、そこに座る憧れの女性のぬくもりに恍惚となる、自らの醜悪さゆえに劣等感の塊となった家具職人……。『人間椅子』で描かれた倒錯した世界観がエポックとなり、乱歩は怪奇・猟奇・耽美に彩られた新たな境地を切り開いていくことになる。
執筆にあたり、実際に安楽椅子に人間が入り込むことが出来るのか。それを実証するため、江戸川乱歩は横溝正史と連れだって神戸の家具屋にまで出向き、それが可能であることを確認したとされる。
怪奇・猟奇な世界に読者を導きつつ、物語の結末に仕掛けられた奇想天外なドンテン返し。それをどう読み解くか。それもまた、この作品の魅力のひとつとなっている。
尚、この作品には、今日からみれば、不適切と受け取られる可能性のある表現がみられます。その旨をここに記載した上で、そのままの形で作品を公開します。
APPLE BOOKSのレビュー
『D坂の殺人事件』『心理試験』といった本格推理小説で高い評価を得る一方、エログロナンセンスな怪奇小説でも異彩を放った江戸川乱歩の初期代表作。作家の佳子は、毎朝、外務省書記官である夫の登庁を見送った後、書斎でファンレターに目を通してから執筆にとりかかるのが日課だ。ある日、椅子職人である「私」から罪を告白する手紙を受け取る。「私」はホテルに納品する革張りの椅子に空洞を作り、その中に潜むようになった。当初の目的はホテルで盗みを働くことだったが、やがて椅子に座る女性の感触を味わうことに喜びを覚えるようになっていく。そんな時ホテルが売却され、「私」の椅子は競売にかけられてある邸宅に買い取られるのだが…。容姿に劣等感を持つ椅子職人の倒錯した熱情と美人作家を襲う恐怖を描き、その先には驚きの結末が待ち受けている。唯一無二の世界観を持つ江戸川乱歩ワールドの入り口にうってつけの短編だ。映画やドラマなど数多くの映像化もされている。