佃島ふたり書房
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5.0 • 1件の評価
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- ¥600
発行者による作品情報
佃の渡しが消えた東京五輪の年、男は佃島の古書店「ふたり書房」を立ち去った。大逆事件の明治末から高度成長で大変貌をとげる昭和39年まで移ろいゆく東京の下町を背景に庶民の哀歓を描く感動長篇。生年月日がまったく同じ2人の少年が奉公先で知り合い、男の友情を育んでいく。第108回直木賞受賞作品。(講談社文庫)
APPLE BOOKSのレビュー
第108回(1992年下半期)直木賞受賞作。古書店を営む傍ら作家デビューを果たした出久根達郎による長編小説。明治から大正、昭和にかけての東京の下町を舞台に、2人の男の友情を中心とした庶民の暮らしを描く。佃島渡船が運航を終える昭和39年、梶田郡司は「ふたり書房」を訪ねた。かつて勤めた古書店は、今は亡き親友、六司の娘である澄子が切り盛りしている。その母の千加子は床に伏し、最期の別れが迫っていた。梶田が六司と出会ったのは15歳の時、神田の古書店の住み込みの下働きとしてだった。以来、「2人で1人」と生涯を共にした。独立開業し、大火ですべてを失うものの、地方へのセドリで成功を収めた日々。梶田は、新たに開通した佃大橋から佃島を見下ろしながら来し方を振り返る…。大逆事件、関東大震災、世界大戦など、背景となるのは日本の近現代史だ。時代の波に翻弄(ほんろう)されながらも、たくましく生き抜く庶民の人情あふれる営み。古本屋稼業で生計を立ててきた男の目を通し、移ろいゆく下町の風景がつづられる。実際に古書店に勤め、後に開業した著者らしい、本への愛情が満ちた切なくも温かな物語。