叫び
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3.3 • 6件の評価
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- ¥1,900
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発行者による作品情報
聞いて欲しい人が一人おるんです。政と聖を描く芥川賞候補作。早野ひかるは「先生」に打ちのめされ、銅鐸と土地の来歴を学び始める。ここではかつて罌粟栽培と阿片製造が盛んで、満州に渡って「陛下への花束」を編み、紀元2600年記念万博を楽しみにしていた青年がいた。いつしか昭和と令和はつながり、封印されていた声が溢れ出す。大阪と大陸で響き合う夢とロマン、恋愛政治小説。
APPLE BOOKSのレビュー
第174回(2025年下半期)芥川賞受賞作。歴史、恋愛、政治、そしてファンタジーが交錯する壮大な物語。舞台は現代の大阪。主人公の早野ひかるは、茨木市の市役所で働く公務員で、公私ともに行き詰まった日々を鬱々(うつうつ)と過ごしていた。ある日彼は、“先生”と呼ばれる老人との出会いをきっかけに銅鐸(どうたく)の鋳造と郷土史を学び始める。もう一つの舞台は戦中。かつてアヘン製造が盛んだった茨木から満州に渡り、ケシ畑を開拓して“陛下への花束”を編むことに情熱を傾ける川又青年は、紀元2600年記念万博を楽しみにしていた。いつしか早野と川又の物語は混ざり合い、二つの時代と2人の夢が共鳴していく。大阪万博で盛り上がる現代の人々と、満州に愛国心を見いだす戦中の人々は、国家や共同体が熱狂する危うさを浮かび上がらせる。時代に翻弄(ほんろう)される個の姿が際立つという意味では、確かに政治的な作品だ。一方、政治的なメッセージが銅鐸というスピリチュアルな装置によって時空を超えて波動し、巨大な渦を生み出していくファンタジーの側面もある。そしてその渦に巻き込まれながらも、早野を現実につなぎ留める存在が、本作に恋愛小説としての側面を与えている。そんな重奏によって響き合う“叫び”に耳を澄ませてほしい。