



吉田同名-Sogen SF Short Story Prize Edition-
創元SF短編賞受賞作
-
-
3.0 • 2件の評価
-
-
- ¥250
-
- ¥250
発行者による作品情報
「20XX年○月△日19時頃、夏の宵闇垂れ込めるS市K町4丁目の通りで多数の住民が暗色の奔流を目撃した」――3年前、会社から帰宅途中の吉田大輔氏(30代、妻と男子ひとり)は、降りた駅から自宅玄関までのあいだで一瞬にして19329人となった。全員が寸分違わぬ吉田大輔氏その人である。瞬く間に報道され様々な考察がなされるが、もちろん原因は分からず対処のしようもない。200~600人ずつに分けて吉田大輔氏が収容された先は計6県の人里離れた廃病院、廃旅館など。隔離された環境下で果たして吉田大輔氏たちは……。応募総数464作から大森望、日下三蔵、山本弘ら3選考委員全員が絶賛し選出した、稀代のスラップスティック思弁SF。第7回創元SF短編賞受賞作。/イラスト=藤原遼
APPLE BOOKSのレビュー
社会保険労務士の男"吉田大輔"が突如として増殖し、人々がパニックに陥る顛末を描く「吉田同名 -Sogen SF Short Story Prize Edition-」。同作は翻訳家でもある石川宗生の小説デビュー作。不条理な出来事を想像力豊かに発展させていき、予想もつかないスリリングな物語へ読者を導く力量が評価され、2016年に第7回創元SF短編賞を受賞。奇想天外な設定ながらも、騒動の発生からその後の経過までが、緻密なシミュレーションによって綴られていく。なぜ増殖したのか、本当に全員が同一人物なのか、吉田大輔本人への聞き取りや科学的調査が進む一方、加熱するスキャンダラスな報道、対応に乗り出す政府など、作中で描き出される社会への波紋は、現実世界の出来事のように真に迫って伝わってくる。やがて互いに協調し、自己組織化していくなど、数万人の吉田大輔の行く末が気になり、最後まで興味が尽きることなく一気に読み進められるはず。登場人物の会話中にさまざまな文学作品のタイトルが引用されるなど、著者の博識を感じさせる要素も魅力的。