



嘘か真言か
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4.5 • 2件の評価
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- ¥1,800
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発行者による作品情報
裁判所の「中の人」から犯罪はどう見えているのか?
新任判事補と癖が強すぎる裁判官が、市内で起こる特殊詐欺事件に挑む。現代の姿を「司法」であぶりだす社会派リーガルミステリー。
日向由衣は裁判官に任官して三年目。念願がかなって志波地方裁判所の刑事部に配属された。しかし、異動が決まった直後から、直近の先輩となる紀伊真言(まこと)裁判官にまつわるさまざまな噂が耳に入っていた。しかも、そのほとんどが悪評である。
紀伊は、理系大学院出身の変わり種だが、プログラムを組むように淡々と裁判を進め、バグを処理するように有罪判決を宣告する、と言われている。そしてもう一つの噂として、紀伊は「被告人の嘘が見抜ける」というのだ。裁判所という場で、こんな非科学的な噂がどこから生まれてくるのか。
また志波地裁に赴任した由衣は、上司となる阿古部長から一つの課題を出されていた。
「紀伊真言が嘘を見抜けるか見抜け」
赴任したばかりの判事補には仕事がない。それならば紀伊の裁判を傍聴して部長の“課題”に答えるしかない。
かくして由衣は紀伊が訴訟指揮をする、窃盗事件の第一回公判に臨む――。
志波市内で連続して起こる特殊詐欺事件、一見して無関係の事実を結び付けて新たな事実をあぶり出す裁判官、新任判事補の成長……裁判所の「中の人」から犯罪はどう見えているのか?裁判所書記官の経験もある著者だからこそのリアルな読み味が魅力の一冊。
APPLE BOOKSのレビュー
弁護士としてのキャリアを持ち、そこで培われた知識と経験を生かした緻密な法廷ミステリーに定評がある作家、五十嵐律人。そんな五十嵐の『嘘か真言か』は、裁判官や判事補という法廷の“内側”にいる人々の視点から、司法が詳(つまび)らかにしていく現代社会の問題を見据えた力作だ。主人公の日向由衣は、任官3年目にして念願の地方裁判所の刑事部に配属された判事補。彼女は“被告人のうそが見抜ける”と言われている先輩の裁判官、紀伊真言が“本当にうそが見抜けるのか見抜け”と、上司に指示される。こうして二つの視点から法廷で“うそ”と向き合うことになった由衣と真言の姿が、生き生きと描かれている。法廷で奮闘する彼らのリアリスティックな描写は、裁判所書記官の経験もある作者だからこそ可能だったのかもしれない。高齢者による窃盗や、特殊詐欺事件、生成AIを巡る著作権問題など、真言が取り組む犯罪はいずれも今日的な社会を反映したもので、市井の私たちにとってもイメージしやすいテーマだろう。そして、普段はうかがい知れない“裁く者”の立場からそれらを描くことで、読者に新たなイメージや視座をもたらしている。