夜の写本師
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3.9 • 19件の評価
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- ¥880
発行者による作品情報
右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠。三つの品をもって生まれてきたカリュドウ。女を殺しては魔法の力を奪う呪われた大魔道師アンジストに、目の前で育ての親を惨殺されたことで、彼の人生は一変する。月の乙女、闇の魔女、海の女魔道師、アンジストに殺された三人の魔女の運命が、数千年の時をへてカリュドウの運命とまじわる。宿敵を滅ぼすべく、カリュドウは魔法ならざる魔法を操る〈夜の写本師〉としての修業をつむが……。日本ファンタジーの歴史を塗り替え、読書界にセンセーションを巻き起こした著者のデビュー作。
APPLE BOOKSのレビュー
異世界ファンタジーの旗手、乾石智子の「夜の写本師」。舞台は獣や人形を使った魔術を操ることができる魔導師が存在する世界。少年カリュドウは、彼の生国に君臨する大魔導師アンジストを倒すため、写本師となる。写本というのは本を手書きで写すことだが、著者が作り出したのは魔力を持つ "夜の写本師"。いわば写本の裏稼業というべき存在だ。彼は手で書いた文字や言葉に力を宿らせる技術を高め、やがて強大な存在の魔導師と対決する。主人公が魔力を磨く過程やそれを取り巻く人々の様子、町の情景なども丁寧に描写され、あたかも映像が浮かび上がってくるかのような文体はデビュー作とは思えないほどに秀逸。さらに、登場人物の想いやそれぞれの持つ力が何世代にも渡り受け継がれていく経緯には緻密な伏線が埋め込まれ、読みごたえ十分。主人公の成長譚であると共に、迫力の魔術戦と示唆に満ちた大団円につながるダイナミックな展開も楽しめる。現代のファンタジー小説を語る上で欠かせない長編作品。