夢七日 夜を昼の國
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2.0 • 1件の評価
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- ¥1,700
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発行者による作品情報
ベストセラー『想像ラジオ』から7年。言葉の力を知り抜く著者が世に問う、渾身の小説集!
【夢七日】交通事故に遭い、意識不明となった木村宙太。震災後、原発で働いていた君だが最愛の妻の呼びかけにも応じられない深い眠りの中にいる。二〇一九年十一月、私は君に、日々ささやきかける。――君よ、目覚めよ。
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【夜を昼の國】一七一〇年、身分違いの悲恋で心中し、恋人・久松と共に「書かれた世界」に放り込まれてしまったお染。歌舞伎や浄瑠璃に脚色され、名誉を傷つけられてきた彼女は今また生き返り、ネットでの中傷に立ち向かおうとする。
APPLE BOOKSのレビュー
言葉の力を知り尽くす、いとうせいこうの本領が発揮された2編からなる中編集。「君はこんな夢を見ている」という一文で幕を開ける『夢七日』に、夏目漱石の『夢十夜』へのオマージュが込められていることに気づく読者もいるだろう。「こんな夢を見た」と一人称で始まる『夢十夜』に対し、本作は「私」が「君」に語りかける二人称の物語へと視点が転じているのがユニークな点だ。交通事故に遭って意識不明に陥った「君」の目覚めを願い、ひたすら語りかけ続ける「私」。他者の見る夢を正確に投射することは、もちろん不可能だ。しかし、それでもひたむきに深層へと分け入っていこうとする本作、未知の感覚を具現化しようと格闘する言葉の数々は、だからこそ読者のイマジネーションを飛躍させる力に満ちている。もう一編の『夜を昼の國』は、有名浄瑠璃「お染久松物」を下敷きにした物語。久松と心中を果たしたお染が現代に転生、浄瑠璃の中で不本意に脚色された自分の人生と重ねながら、SNS上での誹謗中傷に立ち向かっていくという異色作だ。空想と現実が相克するどちらの物語も、最終的には「今」に帰結し、現代社会が抱える問題を鋭く突くに至る。