失うことは永遠にない
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発行者による作品情報
私も、みんなと家族だったらよかった。
東京・目黒の家で暮らす小学5年生の奈保子の家族は、父親の不倫をきっかけに崩壊しつつあった。奈保子は母の失踪を機に、大阪にある父の実家にひとり預けられることになる。河原で出会った同じ年の少女・アサコが奈保子を連れて帰ったのは、血のつながらない4人の兄弟たちが住む、穴ぐらのような家だった。なかでも歳の離れた長男の鋭い眼光に、奈保子は心を奪われるが──。
痴呆が進んだ祖父の静けさと、灼熱の太陽を反射して光る大阪の川面が、冷え切った主人公の心を揺さぶる。人がはじめて対峙する「孤独」を丁寧に描いた、少女のひと夏の成長物語。
APPLE BOOKSのレビュー
家族の中で孤独を抱えていた少女が出会った、あるきょうだいとの忘れられない夏を描いた『失うことは永遠にない』。小学校5年生の夏休み、父の浮気が明るみに出て、母が家出をした。一日中家でひとりぼっちになってしまう奈保子は、大阪に住む認知症の祖父の家に預けられることになった。祖母は他界し、静かな祖父との日々の中で、奈保子の心に“孤独”というぽっかりとした穴があき、少しずつ広がり始めていた。そんなある日、近づいてはいけないと言われていた街に足を踏み入れた奈保子は、同い年の少女アサコと出会う。アサコは母親が帰ってこなくなった古びたアパートで、血のつながらない3人の弟と1人の兄と一緒に学校へも行かずに暮らしていた。自分の東京での生活とはまったく違う彼女たちの暮らしに驚きながらも、毎日一緒に過ごすうちに、たくましく生きるそのきょうだいに憧れや、いつか家族になるという夢を抱き始める。しかし、東京に帰る日がやってきて…。きっと誰にでも忘れられない子ども時代の思い出が一つや二つはあるだろう。奈保子のあの夏はまぼろしのようで、お互いの記憶から薄れていくかもしれないけれど、確かにその日々はそこにあり、失うことは永遠にないのだ。