娘が巣立つ朝
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5.0 • 2件の評価
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- ¥1,900
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発行者による作品情報
どうしてなんだろう――
それでも人はつながろうとする
高梨家の一人娘・真奈が婚約者の渡辺優吾を連れて実家に来た。優吾は快活でさわやか、とても好青年であることは間違いないが、両親の健一と智子とはどこか会話が噛み合わない。
真奈は優吾君とうまくやっていけるのか?両親の胸にきざす一抹の不安。
そして健一と智子もそれぞれ心の中にモヤモヤを抱えている。健一は長年勤めた会社で役職定年が近づき、最近会社での居心地が良くない。週末は介護施設の母を見舞っている。将来の見通しは決して明るくない。
智子は着付け教室の講師をして忙しくしているが、家で不機嫌な健一に辟易している。もっと仲のいい夫婦のはずだったのに……。
娘の婚約をきっかけに一家は荒波に揺さぶられ始める。
父母そして娘。三人それぞれの心の旅路は、ときに隔たり、ときに結びつき……
つむがれていく家族の物語。
APPLE BOOKSのレビュー
『四十九日のレシピ』『ミッドナイト・バス』など静かに暮らす人々の心を柔らかな筆致で伝えてきた伊吹有喜。初めての新聞連載小説『娘が巣立つ朝』も同じくつつましく思い合う家族が主役なのだが、喜ばしいタイトルとは裏腹にスタートから不穏な空気が漂う。正直な話、結婚には金がかかる。恋人でいる間は相手の家庭事情はそれほど気にならないものだが、結婚となれば別である。価値観や金銭感覚の違いに直面しては心が揺れ、婚礼するとなれば両家の経済格差が家族を巻き込む対立になりかねない。母と娘のやりとりから始まる本作は、そこに終着するのかと驚かされる自立の物語だ。東京近郊に暮らす着付け講師の智子は、一人娘、真奈の婚約をきっかけに夫の健一への不満を意識し始める。真奈も婚約者の優吾の甘さと強引な義理の家族に翻弄(ほんろう)されて、悩みが尽きない。一方で、健一や優吾にもつらい思いがある。章ごとに語り手が変わるので感情のすれ違いを多角的に観察でき、ハラハラしながら、登場人物たちへの共感の行ったり来たりが楽しい。着物雑誌で働いていた作者だけに、昔の着物をリメイクして着こなす智子の着物愛にリアリティがある。着物好きにもおすすめの一冊。