孤島の鬼
-
-
4.3 • 76件の評価
-
発行者による作品情報
30歳にもならぬのにすっかり白髪となるほどの恐るべき過去を抱えた青年、蓑浦の回想録として物語が綴られていく、江戸川乱歩の最高傑作とも謳われる一作。
三重県鳥羽の漁村に滞在中の乱歩を旧友の日本画家、岩田準一が訪れ、その際に携えていた『鷗外全集』の中の「中国で見世物のために人間の身体を改造する話」から着想を得たと言われる。
蓑浦の最愛の婚約者、木崎初代の密室での死から恐怖の物語は始まる。その調査を依頼した深山木幸吉も彼の面前で何者かにより刺殺されてしまう。両親に捨てられた初代が持っていた古い家系図を手掛かりに、蓑浦は彼に密かに愛を捧げる医師、諸戸道雄と共に南紀の孤島に向かった。そこで2人を待っていたのは、怪奇と猟奇に彩られた想像を絶する狂気の世界だった……。
博文館発行の大衆雑誌「朝日」に、1929(昭和4)年1月から1930(昭和5)年2月まで連載され、戦時中は乱歩作品独特の耽美で官能的な世界観ゆえに厳しい検閲にあい、何カ所も削除が命じられた。
この作品には、昨今では不適切として受け取られる可能性のある表現が含まれますが、当時の時代背景、表現およびオリジナリティを尊重し、そのままの形で作品を公開します。
APPLE BOOKSのレビュー
同性愛、性的倒錯、身体改造と大胆なテーマを盛り込みつつ、謎解きとホラーを融合させた、江戸川乱歩の最高傑作とも評される作品。物語は、弁護士蓑浦の同僚であり恋人でもある木崎初代が殺害されるところから始まる。蓑浦は探偵の友人、深山木幸吉に調査を依頼するが、彼もまた何者かに刺殺されてしまう。事故現場である海水浴場で、かつての先輩、諸戸道雄の姿を見かけた蓑浦は、自身に特別な感情を抱いていた同性愛者の諸戸こそが、連続殺人犯ではないかと疑念を抱くが…。従来の探偵小説観を逸脱するような実験性を帯びた本作は、乱步の作品の中でも最大の異色作。犯人像の異様な造形、孤島に秘められた陰惨な秘密、人間の内面に潜む異常性と執着が濃密に描かれ、読者に鮮烈な印象を残す。現代の読者にとって乱歩は「昭和の探偵作家」という古風なイメージがあるかもしれないが、ホラー、ダークファンタジー、BL、サイコサスペンスといったジャンルを先駆する要素を豊かに備えた本作には、彼の先見性が明確に刻まれている。人間の欲望と孤独を、陰影と耽美の筆致で描き出した本作こそ、江戸川乱歩の内面を最も赤裸々に映し出した作品といえるだろう。