小箱
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- ¥1,600
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発行者による作品情報
『ことり』につぐ7年ぶりの書き下ろし長編。小さなガラスの箱には亡くなった子どもの魂が、ひっそり生きて成長している。箱の番人、息子を亡くした従姉、歌声でしか会話できないバリトンさん、竪琴をつくる歯科医……「おくりびと」たちの喪失世界を静謐に愛おしく描く傑作。
APPLE BOOKSのレビュー
静謐でありながらもフェティッシュな小川洋子の世界観が遺憾なく発揮された長編小説「小箱」。幼稚園に住みながら小箱の番人をしている私。幼稚園の講堂にはかつて郷土史資料館で過去の時間を閉じ込めていたガラスケースの小箱が並び、そこには死んだ子供たちの未来が保存されている。人々は子供の魂の成長を見守りながら、成長に合わせ、人形やドリル、お菓子やお酒など、思い思いの品を納めに足繁く通う。丘の上で行われる演奏会では、亡くなった子供たちのへその緒、乳歯、遺髪などを用いた手作りの小さな楽器を耳から下げ、丘に吹く風が鳴らすひそやかな音色によって死んだ子供の声と再会する。話中では子供たちが亡くなった理由は明示されない。それぞれの登場人物たちが静かに悼みながら、小さな死者が運ぶ幸せとともに生きる姿は、哀しくも美しい。