彼岸花が咲く島
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4.0 • 1件の評価
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発行者による作品情報
【第165回芥川賞受賞作!】
彼岸花を採りに砂浜にやってきた島の少女・游娜(ヨナ)は、
白いワンピース姿で倒れていた少女を見つける。
記憶を失っていた少女は、海の向こうから来たので「宇実(ウミ)」と名付けられた。
この島では、〈ニホン語〉と〈女語(じょご)〉、二つの言語が話され、
白い服装のノロたちが指導者、歴史の担い手、司祭だった。
宇実は游娜、その幼馴染の拓慈(タツ)という少年に〈ひのもとことば〉を教え、
〈女語〉を教わって仲良くなるが、やがて進路を選ぶ時期がくる。
「成人の儀」にのぞむ3人それぞれの決意とは――。
国籍・言葉・性別などの既存の境界線を問い直す世界を描いた問題作。
解説=倉本さおり
※この電子書籍は2021年6月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
APPLE BOOKSのレビュー
第165回(2021年上半期)芥川賞受賞作。独自の文化を育む架空の島を舞台に、島に流れ着いた少女を通して平和、性別、言語そして国という価値観を改めて考え直す作品。彼岸花が咲き乱れる砂浜に倒れていた記憶のない少女を見つけた游娜(ヨナ)は、彼女を家に連れて帰る。海の向こうからやって来たと思われる少女に、宇実と名付け、2人は共に過ごすようになる。島の指導者であり、歴史の担い手であり、祭礼の祭事を行う、女性にしかなれない役職「ノロ」に憧れている游娜を見つめながら、宇実の心にはさまざまな問いが湧き上がってくる。この桃源郷のような島の不思議な文化や風習、島で話されている二つの言葉「女語」と「ニホン語」の意味、そして自分が何者でどこから来たのか。島での生活を続ける宇実は、ノロだけが知るこの島の深い歴史の中に、その秘密が隠されていることを知る…。台湾出身の作者だからこそ描ける複雑な歴史や、国と国の問題がリアルに浮かび上がり、本作に平和への願いが込められていることを実感する。何より、この物語の結末を知った読者は、ここにつづられた不思議で美しい言語感覚に改めて驚きを感じるだろう。