斬(ざん)
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4.7 • 3件の評価
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- ¥540
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発行者による作品情報
“首斬り浅右衛門(あさえむ)”の異名で天下に鳴り響き、罪人の首を斬り続けた山田家二百五十年の末路は、明治の維新体制に落伍しただけでなく、人の胆をとっては薬として売り、死体を斬り刻んできた閉鎖的な家門内に蠢く、暗い血の噴出であった。もはや斬首が廃止された世の中で、山田家の人間はどう生きればいいというのか。豊富な資料を駆使して時代の流れを迫力ある筆で描き、「歴史小説に新領域を拓いた」と絶讃を博した、第67回直木賞受賞の長篇大作。
APPLE BOOKSのレビュー
第67回(1972年上半期)直木賞受賞作。江戸時代、罪人の斬首をなりわいとし、代々山田浅右衛門を世襲してきた山田家が、明治維新を迎えて没落していく様を描く。安政の大獄で、吉田松陰らを処刑した7代山田浅右衛門吉利を主人公としながら、山田家という特異な存在そのものにもスポットを当てる。罪人を苦しめず、いかに効率よく首を斬るかという業に特化した山田浅右衛門は、平和な江戸時代にあって、唯一武士の気風を伝えてきた一族ともいえる。刀剣の試し切りも任され、日本中の業物の分類も行っている。一方で、汚れた仕事とさげすまれ、公式には浪人という立場で、処刑した罪人の死体を原料とした薬を売って財を成す。武士のようで武士ではない、矛盾だらけの山田家が抱える闇が次第に浮き彫りになっていく様子が、なまめかしくも重厚感たっぷりに描かれる。物語として優れているのはもちろんのこと、志賀直哉の短編エピソードを導入にするなど、随所に山田浅右衛門に関する史料が挿入され、山田浅右衛門の研究書としても読める。