



月ぬ走いや、馬ぬ走い
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4.0 • 1件の評価
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- ¥1,600
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発行者による作品情報
第67回群像新人文学賞受賞!新たな戦争の時代に現れた圧倒的才能!21歳の現役大学生、衝撃のデビュー作。
先祖の魂が還ってくる盆の中日、幼い少年と少女の前に、78年前に死んだ日本兵の亡霊が現れる――。時空を超えて紡がれる圧巻の「語り」が、歴史と現在を接続する!
島尾敏雄ほか先人のエコーを随所に響かせながら、沖縄に深く堆積したコトバの地層を掘り返し、数世代にわたる性と暴力の営みを、『フィネガンズ・ウェイク』的な猥雑さで、書きつけた作品。Z世代のパワフルな語部の登場を歓迎する。
―― 島田雅彦
十四章の構成で沖縄の近現代史を描き切る、しかも連関と連鎖、いわば「ご先祖大集合、ただし無縁者も多い」的な賑わいとともに描き切る、という意図はものになった、と私には感じられた。/この小説はほぼ全篇、ある意味では作者自身のものではない言葉で綴られていて、だからこそ憑依的な文体を自走させている。つまり、欠点は「長所」なのだ、と私は強弁しうる。要するにこの「月ぬ走いや、馬ぬ走い」は小さな巨篇なのだ。
―― 古川日出男
「読んだものを茫然とさせ、彼のいままでを氷づけにし、そのうえで、読むことをとおしてあたらしい魂を宿らせる、そんな小説でありたい……テクストでの魂込め(まぶいぐみ)とでも呼ぶべきところが、ぼくの目標です。」豊永浩平(受賞のことば)
ぼくがここにいて、そしてここはどんな場所で、なによりここでぼくはこうして生きてきた、ってことを歌って欲しいんだ、ほとばしるバースはライク・ア・黄金言葉(くがにくとぅば)、おれらは敗者なんかじゃねえぞ刻まれてんのさこの胸に命こそ宝(ぬちどぅたから)のことばが、月ぬ走いや、馬ぬ走いさ!
APPLE BOOKSのレビュー
沖縄には「黄金言葉(くがにくとぅば)」というものがある。沖縄の日常に根差したこの言葉は、次代へと受け継がれてきた教えであり、またことわざといえるものだ。本著のタイトル『月ぬ走いや、馬ぬ走い』(ちちぬはいや、うんまぬはい)は、黄金言葉で“歳月は馬が走るがごとく過ぎ去ってしまう”という意味になるだろうか。21歳の現役大学生、豊永浩平の衝撃的なデビュー作であり、戦後沖縄から数世代にわたって紡がれる暴力と愛の相克を、ヒップホップ以降のストリート感覚が息づいたZ世代ならではの冗舌な言葉によって語る。先祖の魂がかえってくる盆の中日に、78年前に死んだ日本兵の亡霊が現れるシーンから物語は始まるが、以降は「~」で文脈をつなぎつつ、戦中戦後から令和に至るキャラクターの視点と舞台が次々と入れ替わる構成となっている。これは同じ被写体や登場人物などの動作を同期させ、カットをつないでいく映像編集の手法「ジャンプカット」を応用したものと思われる。このアプローチによって、沖縄で起こった悲惨な戦争の記憶と体験を現代へとつなぎ、負の遺産が継起する沖縄の亡霊の姿を捉えようと試みた、新たな沖縄文学として書き継がれた野心作だ。