来世の記憶
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- ¥1,800
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発行者による作品情報
「あたしの前世は、はっきり言って最悪だった。あたしは、おっさんだった」地球爆発後の近未来。おっさんだったという記憶を持つ「あたし」の親友は、私が前世で殴り殺した妻だった。前世の記憶があるのは私だけ。自分の容姿も、自分が生きてきて得たものすべてが気に入らなかった私は、親友が前世の記憶を思い出すことを恐れている。(「前世の記憶」)「ああもうだめ」私は笑って首を振っている。「うそ、もっとがんばれるでしょ?」「だめ、限界、眠くて」寝ている間に終わった戦争。愛も命も希望も努力も、眠っている間に何もかもが終わっていた。(「眠りの館」)ほか、本書のための書き下ろしを加えた全20篇。その只事でない世界観、圧倒的な美しい文章と表現力により読者を異界へいざない、現実の恐怖へ突き落とす。これぞ世界文学レベルの日本文学。
APPLE BOOKSのレビュー
『爪と目』で第149回芥川賞を受賞した藤野可織が描く、不可思議でひんやりとした短編集『来世の記憶』。体が腐ることを恐れた少女が冷蔵庫で眠る物語「れいぞうこ」、人々がスパゲティに変容して死んでしまう「スパゲティ禍」、森の中に捕らわれた怪獣を少女たちが虐待する「怪獣を虐待する」、赤いおばあちゃんが真夜中の道を歩く「鍵」など、全20編がつづられている。不穏でいて少し笑えるようでもあり、グロテスクな雰囲気が漂いながらも美しく、そして残酷さの中に無邪気さが見え隠れするなど、相反するテーマが絶妙に溶け込む奇想天外な物語たち。そのどれもが全く違う世界観で描かれ、一冊の中にディストピアともホラーともファンタジーとも取れる幻想的な世界が広がる。日常からはみ出してしまった非現実的な物語が、淡々とした語り口によって現実味を帯び、その光景がすぐそばで起こっているかのように脳裏に浮かんでいく。一筋縄ではいかない読書体験が魅力の作品。