水に咲く花
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発行者による作品情報
湖の女神「アラリ・ノ」の病におかされ水の住人となってしまった幼なじみのノイノイ。
彼女と彼女の恋人である従兄弟はもういない。
祈祷師とふたり、アラリ・ノの湖へノイノイに会いに行く。
…彼女を思うあまり犯した罪と向き合う旅に出る。
*****
「それだけは、いかん」
「僕は」
「湖だろうとどこだろうと、自分で死のうなんて、そんなだいそれたことはいかん」
そこで祈祷師は咳きこんだ。
「すみません」
「生き死には、人間が勝手にしていいもんじゃない。神や精霊や、人間とはべつの目を持った方々が決めて行うもんだ」
自分の吐瀉物に土をかぶせ、彼はかぶりを振る。
「おまえさんの親父さんたちが、土に呑まれて逝きなさった。そうだな?」
「はい」
「人間とはべつの目を持つ方々は、いつも気まぐれで残酷でいらっしゃる。人間の意思など汲んでくださらん。生き死にとは、そういう場所で扱われるものだよ」
僕を一瞥した祈祷師の目は、傷ついて濡れていた。
「なにが原因で、なにを考えて、なんでまたおまえさんが死のうとしたかは知らん。だが、その結論だけはいただけん。人間の領分ではないんだ」
「人間には……そんな権利はないと?」
「そうだ。それを行う場所にいるのが、神ってものだ。人間には、生き死ににまつわる暗い場所を見て、それに耐えられる目がない。そんなものを、のぞきこもうとしちゃいかん。おまえさんが見るべきものは、もっとべつにあるはずだ」