湿地
エーレンデュル捜査官シリーズ
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- ¥1,000
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発行者による作品情報
雨交じりの風が吹く10月のレイキャヴィク。湿地にある建物の地階で、老人の死体が発見された。侵入の形跡はなく、被害者に招き入れられた何者かが突発的に殺害し、逃走したものと思われた。金品が盗まれた形跡はない。ずさんで不器用、典型的アイスランドの殺人か? だが、現場に残された3つの単語からなるメッセージが事件の様相を変えた。しだいに明らかになる被害者の隠された過去。そして臓腑をえぐる真相。ガラスの鍵賞2年連続受賞の前人未踏の快挙を成し遂げ、CWAゴールドダガーを受賞した、北欧ミステリの巨人の話題作。
APPLE BOOKSのレビュー
古くはマイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーの刑事マルティン・ベックから、ヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダー警部など、評価の高いスウェーデンの警察小説シリーズ。それらに対しこの『湿地』は、同じ北欧でもアイスランドを舞台にしたエーレンデュル捜査官シリーズの出世作となった3作目で、日本では初紹介となった作品。レイキャビクで北の湿地と呼ばれる住宅街にあるアパートの地階から、老人の死体が発見される。重い灰皿で頭部を一撃された老人は人付き合いもなく、突発的な殺人と思われたが、現場には「おれ は あいつ」と書かれた謎のメッセージが残されており、捜査に当たったエーレンデュルが部屋の引き出しの奥から見つけた1枚の古ぼけた写真には、1968年にわずか4歳で死んだ少女の墓石が写っていた。果たして被害者の過去に何があったのか。ミステリーの形を借りて、容赦なく社会問題を掘り下げる北欧ミステリーの特徴は本作にも顕著。ファミリーネームの概念がない一方で、人口がわずか30万余りである故に血のつながりを容易にさかのぼれる島国というアイスランドの特質が、埋もれた過去を暴きだし、重い“血”の悲劇として結実する。アイスランドの厳しい環境が生んだ警察ミステリーの力作。