



熱源
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4.4 • 13件の評価
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- ¥880
発行者による作品情報
樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。
一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。
樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、
国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。
金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、
読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。
※この電子書籍は2019年8月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
APPLE BOOKSのレビュー
第162回(2019年下半期)直木賞受賞作 - 明治時代の樺太(サハリン)を舞台に、北の厳しい寒さの中、大国の同化政策にあらがおうとした、熱い男たちの物語。第162回直木賞に輝いた大作。日本人にされそうになった樺太アイヌの山辺安之助と、ロシア人にされそうになったポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキが、極寒の樺太で出会い、自分たちが守り継ぎたいものの正体にたどり着く。主人公の山辺安之助は、アイヌ語研究者の金田一京助が聞き書きした『あいぬ物語』の作者であり、日本の南極探検隊で樺太犬の犬ぞりを担当した実在の人物。同じくピウスツキも、リトアニアで生まれ皇帝暗殺事件に連座して流罪になったという実在の文化人類学者。日本とロシアの近代史をこの2人を通してたどりながら、両国に挟まれたアイヌの暮らしや文化、立場が詳細に描かれる。大きなスケールと緻密なディテールが混然一体となった物語の背景には、民族アイデンティティ、分断と不寛容などの重要なテーマが内包されている。多様性が尊重されるべき今こそ読みたい一冊で、物語の持つ熱そのものに心動かされる。