



猿の戴冠式
-
-
2.5 • 2件の評価
-
-
- ¥1,700
-
- ¥1,700
発行者による作品情報
ある事件以降、引きこもっていたしふみはテレビのなかに「おねえちゃん」を見つけ動植物園へ向かう。言葉を機械学習させられた過去のある類人猿ボノボ”シネノ”と邂逅し、魂をシンクロさせ交歓していく――”わたしたちには、わたしたちだけに通じる最強のおまじないがある”。
幻想と現実が互いに侵蝕していく圧倒的筆致。
人間存在の根源的な闇に光をあてる”唯一無二の才能”。
APPLE BOOKSのレビュー
『家庭用安心坑夫』に続く、小砂川チトの2作目。とあるアクシデントにより、現在は家に引きこもっている競歩選手のしふみ。そして研究所で人間の言語を学習させられた過去を持ち、今は動植物園で暮らす類人猿ボノボのシネノ。「ただひとまとまりのパン生地として、フカフカと暮らすことが選ばれつづけてきた」種族と「高度に発達した人間」。帰属する場所は違えども、世界のどこにも適切な所在がない、と感じている2人が邂逅(かいこう)し、たった一人の共感者としてお互いを理解していく。現状に追い詰められながらも、「絶対になにかみどころのあるやつだというこの一点についてだけは未だに、どうしても、底のところで諦めがつかなくて」煩悶(はんもん)するしふみ。やがて彼女はシネノとの交流で「どんなときもこれさえ忘れなければ、きっと生き延びられる」最強のおまじないを思い出す。圧倒的な内省と幻想と現実が入り混じり、すさまじい密度で物語は展開していく。その息苦しさにからめ捕られそうになりながらも得た結末からは、強い開放感を覚えるだろう。