現代語訳 平家物語
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4.5 • 2件の評価
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発行者による作品情報
「平家物語」は鎌倉初期に成立したとされ、軍記物語の最高傑作として名高い。吉田兼好の「徒然草」では作者は信濃前司行長とあるが、諸説あり定かではない。
仏教的な無常観を背景に、平清盛を筆頭とする平家一門の栄枯盛衰と没落しつつあった平安貴族、そして新たに台頭した武家社会における人間模様が描かれる。
「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」の書き出しで広く知られ、盲目の琵琶法師によって語り継がれてきた。琵琶を奏しつつの語りは「平曲」と呼ばれ、ここで使用される琵琶は「平家琵琶」と称される。
読み物としても伝えられ、延慶本、長門本、源平盛衰記など、様々な異本があるが、「平家物語」の成立過程については作者や年代も含めて不明な点が多い。
本書は、子供の頃から薩摩琵琶を嗜み、自らも「弾奏をやりながら歌ったこともある」と語る文豪・尾崎士郎による現代語訳。数多ある現代語訳にあって名訳のひとつに数えられている。
APPLE BOOKSのレビュー
平安時代末期、栄華を極めた平氏一門が没落し、源氏との戦いに敗れ滅んでいくまでを描いた壮大な歴史物語。作者不詳のまま琵琶法師によって語り継がれた『平家物語』は、やがて琵琶法師の歌を記した「語り本」と、読み物として再構築した「読み本」に分かれて後世に伝えられた。「読み本」も数々の人気作家が手掛けてきたが、昭和の文豪尾崎士郎が手掛けた現代語訳版は、原本のテイストを残しながら現代人にも読みやすくまとめられている。「祇園精舎の鐘の声」で始まる序文と源平合戦のシーンばかりが有名だが、一介の地方武士から都の実権を握り、武士政権の基礎を築いた平清盛の改革者としての姿も近年は再評価されている。後白河院や寺社勢力との対立、度重なる反乱の鎮圧など、平氏の権勢が順風満帆ではなかったことも新鮮。悪役として描かれることも多いが、源氏に政権が移っても消されることのなかった、人の心の機微を描いた名場面の数々は、いつの時代にも胸を打つ普遍性がある。