異類婚姻譚
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3.3 • 24件の評価
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発行者による作品情報
子供もなく職にも就かず、安楽な結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く。「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言する夫は大量の揚げものづくりに熱中し、いつの間にか夫婦の輪郭が混じりあって…。「夫婦」という形式への違和を軽妙洒脱に描いた表題作が第154回芥川賞受賞! 自由奔放な想像力で日常を異化する傑作短編集。
APPLE BOOKSのレビュー
第154回(2015年下半期)芥川賞受賞作。受賞した表題作は、説話の形式を借りて夫婦関係を描いた中編小説。異類婚姻譚とは、人間でない相手と人間が結婚する説話。本作は中でも、見返りを得る代わりに異類と結婚する羽目に陥る女性が描かれる。ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気付いた私。家でテレビのバラエティ番組ばかり見ている旦那は、夫婦だけになると体裁を保つこともなく、顔が崩れて目や鼻の位置が適当に置かれている。楽をしないと死んでしまう新種の生きものと化した旦那は、会社も休みがちになり、なぜか揚げ物料理を作り続け、嫌がる私に振る舞う。耐えられなくなった私が問い詰めると…。夫婦が似てくるという話はよく聞くが、互いの境界が薄れていく感覚をグロテスクなユーモアに包んで描き、奇妙な共生の果てに訪れる結末は、単に妻が抱く夫婦関係の不安にとどまらず、夫から見た有害な男らしさの否定でもある点が興味深い。他に、この世界が途中で消されるクイズ番組だと主人公が突然理解する「トモ子のバウムクーヘン」、白い犬たちとの幻想譚「〈犬たち〉」、藁でできた夫とその妻を描く「藁の夫」の3つの短編を併録。