砧をうつ女
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- ¥440
発行者による作品情報
和服にパラソルをさして、日本から母は帰って来た。貧しいなかをおおらかに生きた母の生涯を清冽な文体で描く鎮魂の譜。ひろく共感を呼んだ芥川賞受賞作品。この表題作と表裏をなす「人面の大岩」は、喜怒哀楽ははげしかったがきわめて平凡な人生を送った父の肖像を感動的に綴った。ほか、在日朝鮮人の哀切な魂の唄を歌い上げ、著者の文学的基点を示す珠玉の短篇「半チョッパリ」「長寿島」「奇蹟の日」「水汲む幼児」の四篇を収録する名品集である。
APPLE BOOKSのレビュー
第66回(1971年下半期)芥川賞受賞作。芥川賞初の外国籍作家による受賞作として話題となった『砧をうつ女』。著者の李恢成(り・かいせい/イ・フェソン)は1935年当時、日本の領土だった樺太(現サハリン)で朝鮮半島出身の両親の間に生まれ、終戦後は祖国に帰国できず、北海道へ流れ着いたバックグラウンドを持つ。民族のアイデンティティと不条理を書き続けてきたが、小学3年生の時に亡くした最愛の母、述伊(スリ)を回想する美しい鎮魂歌で芥川賞を受賞した。家族のために砧をうって一生を終える人生は嫌だと、若き日の述伊は朝鮮半島の貧村から日本へ出稼ぎに行く。「砧をうつ」とは衣服のしわを伸ばし、布を柔らかくするために棒で叩き続ける家事のこと。日本では明治時代に廃れたが、朝鮮半島では1970年代まで行われていたそうだ。家庭に収まることを嫌ったはずの述伊は5人の子の母となり、夫の暴力に耐えきれず33歳で病死してしまう。母の年を追い越した三男の記憶と、祖母が歌い伝える娘の身の上話が交錯し、激動する時代に流された女性の生涯が立体的に浮かび上がってくる。日本と朝鮮の歴史的背景や文化風習の違いも読み取れる貴重な名作。その他、「水汲む幼児」など4編を収録。