絵のある自伝
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- ¥800
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発行者による作品情報
『旅の絵本』『ふしぎなえ』『ABCの本』などが世界中で愛されている画家の、初の自伝。
「自伝のようなものは書くまい」と思っていたが、日本経済新聞の「私の履歴書」欄に原稿を寄せるうちに「記憶のトビラがつぎつぎに開いた」、と大改稿大幅加筆。人情味のある豪傑な義兄、小学校で隣の席だった女の子、朝鮮人の友人、両親、弟……昭和を生きた著者が出会い、別れていった有名無名の人々との思い出をユーモア溢れる文章と柔らかな水彩画で綴る。
「わたしも、冗談が多すぎた。でもまだ空想癖はやまない。しかしこの本に書いたことはみな本当のことで、さしさわりのあることは書かなかっただけである」とは著者の弁だが、炭鉱務め、兵役、教員時代など知られざる一面も。
50点以上描き下ろした絵が、心温まる追憶は時代の空気を浮かび上がらせ、読む者の胸に迫る。楽しく懐かしい、御伽話のような本当のお話。
※この電子書籍は2014年5月刊行の文春文庫を底本としています。
APPLE BOOKSのレビュー
1926年に島根県津和野に生まれ、1968年に文章がない画期的な絵本『ふしぎなえ』で絵本作家デビューを果たした画家の安野光雅。世界中を旅して描いた『旅の絵本』や『ABCの本』などで、海外にもファンを持つ安野が、新聞連載をきっかけに記憶をたぐり寄せた初の自伝。作家の司馬遼太郎の取材旅行に同行した裏話や、第2次世界大戦の終戦間近に召集された経験談、さまざまな事情を抱える友達と過ごした子ども時代などを、のほほんとした文体と温かみのある描き下ろしの水彩画で振り返る。雨さえ降らなければ体育の授業はクラス全員参加の野球をさせたり、自身の探究心故にアリの研究ではとんでもない実験をしたりなど、小学校の教師時代の自由過ぎるエピソードには笑いが。こんな先生がいたら学校が楽しかっただろうと、うらやましくなる。ユーモラスでひょうひょうとした自伝だが、子どもの頃から周囲を冷静に見つめる観察眼と確かな記憶力を生かした描写、そして感情を抑えた語り口に、画家のすごみが浮かび上がる。