襷がけの二人
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発行者による作品情報
オール讀物新人賞で注目を浴びた新鋭、初の長編小説
裕福な家に嫁いだ千代と、その家の女中頭の初衣。
「家」から、そして「普通」から逸れてもそれぞれの道を行く。
「千代。お前、山田の茂一郎君のとこへ行くんでいいね」
親が定めた縁談で、製缶工場を営む山田家に嫁ぐことになった十九歳の千代。
実家よりも裕福な山田家には女中が二人おり、若奥様という立場に。
夫とはいまひとつ上手く関係を築けない千代だったが、
元芸者の女中頭、初衣との間には、仲間のような師弟のような絆が芽生える。
やがて戦火によって離れ離れになった二人だったが、
不思議な縁で、ふたたび巡りあうことに……
幸田文、有吉佐和子の流れを汲む、女の生き方を描いた感動作!
APPLE BOOKSのレビュー
大正から戦後の東京を舞台に、それぞれの生き方を見つけていく女性たちの姿を描く。短編集『スナック墓場』が高く評価された新鋭、嶋津輝が初めて手掛けた長編小説。女性が自由に生きることが難しかった時代、千代は親の意向のままに裕福な家に嫁ぎ、女中頭の初衣と出会う。2人は主従の関係ではあるものの、おっとりした性格の千代はしっかり者の初衣に友情の念を抱き、家の切り盛りに仲良く精を出す。そんな2人はそれぞれ心に秘めた深い悩みがあった…。女性たちが厳しい運命に翻弄(ほんろう)されながらも、自分たちの手でつかみ取れるものにしっかりと手を伸ばし、ひたむきに生きる姿がまぶしい。要所要所に出てくる飼い猫のトラオを含め、家という限られた空間の中で一緒に生活するものたちの交流が丹念に、ほんの少しのおかしみをもって描かれ、そのすべてが愛おしく感じられる。そして、一生を共に生きたいと思える相手と巡り合った千代と初衣の関係は、人との出会いが人を生かすのだと改めて気付かせてくれる。