詩人の恋
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- ¥2,000
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発行者による作品情報
「お宅の旦那はあの歌曲集の中で一つ、やってはいけないことをした」。シューマンの妻・クララのもとにある日偽名による脅迫状が届く。シューマンの作品の評価を貶める決定的な証拠を入手したというのだ。夫婦の友人・ブラームスは、ハイネの詩をもとに創られた連作歌曲集「詩人の恋」にこめられた謎を追い、ベルリンに向かうが……。一方、180年の時を経た現代では、恋に悩む高校生、大学生指揮者、ベルリンを訪れた大学教員が「詩人の恋」をめぐって不可解な出来事に遭遇していた……。
APPLE BOOKSのレビュー
19世紀のドイツ、音楽家のシューマンの妻の元に一通の脅迫状が届く。その脅迫状の内容から、夫妻の友人のブラームスはハイネの詩を基にしたシューマンの歌曲集、『詩人の恋』に込められた謎を追うことになる。一方、180年後の現代日本でも、片思い中の高校生や大学の合唱サークルが『詩人の恋』を巡り不可解な事件に巻き込まれようとしていた。気鋭のミステリー作家、深水黎一郎が生み出した名キャラクターである芸術探偵、神泉寺瞬一郎が活躍するシリーズに連なる本作は、過去と現在を交差させながら名曲の謎に迫る本格ミステリー。各エピソードがそれぞれに独立して進み、短編小説集のようにも読み取れる前半から一転、芸術探偵の推理がさえわたる後半では7つのエピソードが鮮やかに組み直され、初めて物語の壮大な全体像が見えてくる。180年の時空を行ったり来たりしながら巧みにヒントを残し、『詩人の恋』に対する大胆な再解釈を提示していく作者の力量にも圧倒される。クラシック音楽への造詣やシューマンと妻クララ、ブラームスの三角関係の知識がなくとも、十分に楽しめるエンターテインメント作品だ。