転がる香港に苔は生えない
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5.0 • 4件の評価
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発行者による作品情報
あの時、あの街で、君に出会った
中国返還前の香港で、たくましく生き、様々に悩み、見果てぬ夢を追い続ける香港の人々の素顔。第32回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作
APPLE BOOKSのレビュー
写真家でありノンフィクション作家でもある星野博美の「転がる香港に苔は生えない」。著者は1997年7月1日の中国への返還を現地で体験したいという想いから、1996年8月から約2年にわたって香港に滞在。下町の狭い集合住宅の一角に住まいを得て、市井の人々の暮らしぶりを生活者と異国人の双方の目線で読み解いていく。また、現地の友人や行きつけの飲食店で知り合った人との会話を通じ、彼らの金銭や食に対するこだわりや家族のありよう、さまざまな背景による人生観などを浮かび上がらせている。一人ひとりの表情や息遣いまでも感じられるような、生き生きとした筆致が魅力的。イギリスや中国との関わりなどから醸成された香港の特徴を俯瞰的に見たり、友人らの言動を第三者的に冷静に分析している。一方、日常的な出来事や返還当日における自身の驚きや戸惑い、出会った人たちに対する好悪を包み隠さず綴り、本作に深みを与えているのは秀逸。返還期の香港の混沌と活力を鮮やかに切り取り、自らの生きざまについても考えさせる長編ドキュメンタリー。