逆転正義
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3.5 • 2件の評価
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- ¥760
発行者による作品情報
教室である日突然始まったいじめ。「僕は見て見ぬふりなんかできない!」。職員室へ密告に行くが、先生は何故か見て見ぬふり。たまらず先輩に相談すると、加害者たちを実名で晒し始めあっという間に大炎上。「自分は正しいことをした」と思っていたが――。日常で暴走する〝正義〞を題材に、常識がひっくり返る全篇大どんでん返しミステリ短編集!
APPLE BOOKSのレビュー
絶対的な正しさという思い込みの虚をつく、ツイストの効いた6編を収録した下村敦史の短編集。教室内のいじめを告発しても反応の薄い担任にしびれを切らした高校生が先輩に相談したことから“正義”が暴走する「見て見ぬふり」、コンビニの軒先で雨に濡れて立つ制服姿の彼女と仕事帰りに出会った満雄…年の離れた2人が同棲する顛末(てんまつ)をカットバックで描く「保護」、懲役2年の実刑判決を受けた麻薬の売人が完全黙秘を貫いた理由を明かす「完黙」、血まみれの洗面所で起きた出来事を隠す女と彼との攻防戦がスリリングな「ストーカー」、息子を殺された父親を通して罪と赦しを問う「罪の相続」、人を殺した罪を抱えて札幌刑務所から出てきた男につきまとい金をせびる少年たちが予想外の贖罪(しょくざい)に出会う「死は朝、羽ばたく」。いずれも何げない描写で周到に伏線を張りながら、センセーショナルな逆転劇で読者を翻弄(ほんろう)するが、単に技巧的なだけではない。常識を覆す結末は登場人物それぞれの裏事情を反映したものであり、SNSで断片的に知った情報だけで見知らぬ他人を断罪するような安易な正義感への警鐘である点も見逃せない。サプライズと現代的な社会批判が同居する作品集。