



雁の寺(全)
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5.0 • 1件の評価
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- ¥490
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発行者による作品情報
頭の鉢が異常に大きく、おでこで奥眼の小坊主・堀之内慈念は寺院の内部になにを見、なにをしたか。京都の古寺、若狭の寒村、そして滋賀の古刹を舞台に、慈念の漂流がつづく。著者の体験にもとづいた怨念と、濃密な私小説的リアリティによって、純文学の域に達したミステリーである。昭和36年上期(第45回)直木賞を受賞した第一部の「雁の寺」につづく「雁の村」「雁の森」「雁の死」の四部作に新たに加筆し一冊に収めた、著者の代表作だ。
APPLE BOOKSのレビュー
第45回(1961年上半期)直木賞受賞作。社会派推理小説の名手である水上勉が、幼少期の禅寺での修行体験を基に描いた私小説的な人間ドラマ。京都の画壇で名をはせた岸本南嶽が、襖に見事な雁(がん)を描いた孤峯庵(こほうあん)から物語は始まる。この「雁の寺」の住職である北見慈海(きたみ じかい)は、南嶽の死後、彼の妾であった桐原里子を内妻に迎え、戒律を忘れるほどに里子との情事に溺れていく。その姿を障子の陰からのぞく者があった。小さな身体に、異様に大きな頭を持つ小坊主の慈念(じねん)だ。慈念の陰気な外見と眼光を嫌う里子だったが、ある夜、彼の悲劇的な生い立ちを聞き、慰めるために思わず身体を許してしまう。この許されぬ関係をきっかけに、慈念の中で慈海に対する感情や怨念が発露し、ある悲劇が生まれる…。著者の真骨頂であるミステリー描写を生かしながら慈念の半生を濃密に描ききった本作は、彼の謎に満ちた行動と共に舞台が変わる4部構成。渡り鳥として知られる雁のように次々と住む場所を変え、周囲の人々を巻き込みながら人間の本質を浮き彫りにする慈念の旅は、どんな結末を迎えるのだろうか。