飽くなき地景
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5.0 • 2件の評価
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- ¥2,200
発行者による作品情報
土地開発と不動産事業で成り上がった昭和の旧華族、烏丸家。その嫡男として生まれた治道は、多数のビルを建て、東京の景観を変えていく家業に興味が持てず、祖父の誠一郎が所有する宝刀、一族の守り神でもある粟田口久国の「無銘」の美しさに幼いころから魅せられていた。家に伝わる宝を守り、文化に関わる仕事をしたいと志す治道だったが、祖父の死後、事業を推し進める父・道隆により、「無銘」が渋谷を根城にする愚連隊の手に渡ってしまう。治道は刀を取り戻すため、ある無謀な計画を実行に移すのだが……。やがて、オリンピック、高度経済成長と時代が進み、東京の景色が変貌するなか、その裏側で「無銘」にまつわる事件が巻き起こる。刀に隠された一族の秘密と愛憎を描く美と血のノワール。
APPLE BOOKSのレビュー
一振りの日本刀と東京の土地開発を介し旧華族一家の興亡と日本の戦後史を描いた大河小説にして、失われゆく美に魅せられた男の一代記。第172回直木賞候補作。刀に審美眼を持つ祖父の薫陶を受けた烏丸家の嫡男、治道は祖父が所持した粟田口久国による無銘の刀に引きつけられ、刀剣を展示する私設博物館の設立を志す。だが、大叔父の興した建設会社を発展させ、東京をビルで埋め尽くす父の道隆は、ある理由から無銘の刀を愚連隊に渡してしまう。治道は大学の友人、重森と共に刀を取り戻そうと画策するが…。治道の人生をたどり、1944年から2002年までの五つのエピソードでつづった物語は、労働争議、東京オリンピック、ゼネコン汚職、汐留の超高層ビルなど、虚実を交えて東京という都市の変貌を描き出す。直接的または間接的に、すべての話に無銘の刀を絡ませる構成が見事。地景とは、刀の地鉄にある種の景色として現れる紋様のこと。マラソンランナーの悲劇や、放縦な父がもうけた婚外子である兄との権力争い、あるいは祖父が隠していた秘密もすさまじいが、東京の景観の変遷も、家族の愛憎劇も、大所高所に立てば、歴史という刀の地景に他ならないと思わせる傑作。
カスタマーレビュー
自分とは
自分は俺ではなく自分という形だと思う